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  • Emiko Manners

制御不能な厄介者は身体の潜在的な記憶!?(チョーキング、イップス、ジストニア)

スポーツをしたことがある人ならチョーキングやイップスについて聞いたことがあるだろう。音楽家だったらジストニアは有名で厄介に現象であることを知っているだろう。

これらは一般的に特定の動作や技術の制御が難しくなる神経系の障害で、例えばスポーツにおいて以前は自然に行っていた動作(ゴルフのパッティング、野球の投球等)が突然できなくなったり、ミスを連発すること、また音楽家においては突然ピアニストの指が予期せぬ動きをしてピアノが弾けなくなってしまうことだったりする。従来、スポーツ・パフォーマンス心理学の領域ではこれらは不安から生じる現象だと捉え、伝統的な手法で思考や感情にアプローチし、不安を取り除こうという動きが一般的だった。リラクゼーション法、セルフトーク、集中法等を使って。それに加え最近では、Solution-Focused Guided Imagery Activity(解決志向ブリーフセラピー)とGuided Imagery(誘導イメージ法)を掛け合わせたものが効果的だという研究結果も出ていたりする。

しかし、それらの手法を使ってもなかなか解決できないクライアントがいることにこれまで多くのメンタルコーチが悩まされてきた。そこで最近注目されているのが、トラウマ療法を使ったアプローチであり、実際に効果的だという事例が増えてきている。何故トラウマ療法が有効的なのか。それは、動物に組み込まれた普遍的な生存メカニズム、戦闘/逃避/フリーズ反応からで理解することができる。ストレスが高まると、人間は本能的に利用可能なエネルギーを全て生存に向け、心拍数増加、骨格筋緊張などの生理的変化を起こす。日常的な生活の中でも我々は身体的、精神的にチャレンジングな場面にさらされることが多いが、スポーツや音楽、ダンス等を高いレベルで競技として行う場合更にその機会は多くなる。そしてこれらのいわゆるストレスフルな体験は記憶として人々の脳や身体で記憶されていくと考えられる。最新のトラウマ・ケア、ソマティック・エクスペリエンシングの創設者ピーター・ラヴィーン博士によると、サバイバル反応の3番目、Freeze(凍り付く)が起こるのは、動物の生存するための最後の手段と考えられ、凍り付くことで、死んだふりをして獲物から食べられないようにするため、あるいは仮に食べられたとしても痛みを極力感じない状態でいたいから選ばれる手段だと考えられている。でもラヴィーン博士は動物がこのような凍り付き状態から解放された時、Shake Off(ぶるぶると振り払う)して、エネルギーを発散することに着目をしていている。Shake offすることで凍り付きに使われていたエネルギーが解放され、正常に戻るので動物はどんなに過酷で生命を脅かされる状況になってもそれがトラウマとして残ることがないという。人間は、一方で凍り付き状態から自然にエネルギーを解放することができず、それが結果としてパニック、無力感、フラッシュバック等をもたらすということだ。そしてそれがイップスやそれ以外のメンタルブロックとしてアスリートや音楽家を苦しめる要因だと説明している。

トラウマといってもそれは個々の捉え方によって変わるので、一般的にイメージされやすい大きな事故や怪我でなくても、人前で失敗した経験や批判を受けた経験等でも発生し、イップス等となって表れることがある。重要なのは、記憶のプロセスであり、ラヴィーン博士は高いストレスが「未完了」なままのプロセスとして脳や身体に残ることを指摘している。

スポーツ心理学やポジティブ心理学、コーチング、コンサルティングでは基本的に未来に働きかけることが多い。でも立ちはだかる「壁」やメンタルブロックの本質を理解し、克服するためには、無意識に蓄積された脳と身体の記憶、過去にアクセスすることも非常に大切なプロセスだと感じており、私自身のコンサルティングで大切にしている視点である。

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